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2019年 ブルーリボン・ローレル賞選定車両

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ブルーリボン賞:小田急電鉄 70000形

写真:鉄道友の会

小田急電鉄 70000形は、60000形以来10年ぶりに投入された特急ロマンスカーです。「箱根に続く時間(とき)を優雅に走るロマンスカー」を開発コンセプトとし、3000形SE車から続く愛称は「Graceful Super Express」の頭文字より「GSE」と名付けられています。

4M3Tの7両固定編成で、可動式ホーム柵への対応を考慮して20m級ボギー方式を採用。車体はアルミ製ダブルスキン構造で、ローズバーミリオンを主体とした鮮やかな塗装を施しています。先頭部は曲面とエッジラインを組合せたシャープなデザインで、先頭部と連結間には衝撃吸収装置を設置し、更なる安全性の向上を図っています。

客室内は、高さが拡大された連続窓と人工大理石・ガラス材の多用により明るく開放感溢れる空間を創出しています。展望席は全16席で、センターピラーレスの大型3D曲面ガラスと座席配置の見直しにより眺望性が大きく向上。先頭車の一般席は荷棚を設けないことで開放感が増し、先頭車全体が展望スペースと感じさせるデザインとなっています。荷棚のある中間車も素材の工夫により閉塞感を軽減させています。腰掛は幅の拡大と座面を高くすることにより、座り心地と立ち上がりやすさの両立・向上を図ったユニバーサル仕様を追求しています。腰掛下に大型荷物を収納可能なスペースを確保しているほか、4号車を除く各車端部にラゲージスペースを設置しています。車いすスペース、ゆったりトイレなどのバリアフリー対策のほか、客室内・デッキ部の防犯カメラ、高音質ステレオ放送装置、車内Wi-Fiなど、付帯設備も充実しています。

走行装置は、フルSiCモジュールVVVFインバータ制御装置や全密閉式主電動機などの採用により、使用電力量・騒音の低減などを図っています。また車体/台車間にはフルアクティブサスペンション(動揺防止制御装置)を搭載して左右振動を軽減し、乗り心地を向上しています。

70000形は2018年3月より営業運転を開始し、複々線化完成により念願であった新宿→小田原間60分以内を達成した箱根特急を中心に運用されています。展望席やスタイリッシュな車体デザインなど小田急ロマンスカーとしての伝統を継承しつつ、最新の設備・技術を惜しみなく導入してユニバーサルデザインの積極推進や環境負荷の低減を図るなど、現代の鉄道車両のトレンドリーダーにふさわしい極めて高い完成度に仕上げられていることを評価し、ブルーリボン賞に選定しました。

ローレル賞:相模鉄道 20000系

写真:鉄道友の会

相模鉄道20000系は、2019年11月30日に開業となる相鉄・JR直通線の一部である「相鉄新横浜線」を介して、2022年度下期開業予定の「東急新横浜線」と接続し、東急各線への直通運転の仕様を考慮した車両です。設計思想は、同社の創立100周年を機にグループ全体で進めている「デザインブランドアッププロジェクト」に基づき、鉄道車両について車体色・前面デザイン・車内照明の統一コンセプトを掲げました。

全体構成は、車体長20m級の車両を8両・10両いずれの編成も組成可能なシステムを構築しています。車体幅は、直通運転の要件に沿って、長らく標準としてきた2,900mm超よりも狭小の2,770mmとしています。構体は、アルミニウムの形材を接合したダブルスキン方式です。前面は、複数の加工手法を併用して後退角をとり、装飾的な要素も取り入れ、直通運転先で必要な貫通扉の存在を感じさせない造形に仕上げています。外観は、コンセプトに基づき、YOKOHAMA NAVYBLUEと称する濃紺一色で全体を塗装しています。

機器類は、想定使用路線の線形を考慮し、動力性能向上・非常時対応・運転支援装置搭載に対応しています。制御装置は、IGBT2レベルSiCハイブリッドモジュールによるVVVFインバータ方式です。主電動機は出力190kWの全閉内扇形で、編成中の電動車と付随車の比を常に1:1に配置可能です。補助電源装置は、異常時の延長給電機能を備えた容量260kVAの IGBT3レベル方式で、編成中に2台搭載しています。

車内は、客室全体をグレートーンで統一しています。コンセプトに掲げたLED照明は、季節・時間毎のタイムテーブルにより、調光調色が自動で設定されます。座席配置はオールロングシートで、車端部にユニバーサルデザインシートとフリースペースを設けています。側出入口には個別ドア操作スイッチを設置、車内サイネージは側出入口上部に加えて枕木方向にも配置しています。案内標記は、ピクトサインと文章の組み合わせ・貼り付けルールを統一しています。これらの新コンセプトのほか、採用が途絶えて久しい鏡の設置を復活させています。

このように相模鉄道は、100年の歴史の節目に都心直通を実現するにあたり、共通化という前提の下で限られた独自性を見出す車両が増加する中にあって、明確なコンセプトを策定した後に共通化に対応させるという意欲を鮮明に打ち出した車両を開発しました。選考委員会では、これらの点を高く評価し、20000系をローレル賞に選定しました。

ローレル賞:叡山電鉄 デオ730形「ひえい」

写真:鉄道友の会

デオ730形は叡山電鉄が発足してまもない1988年に登場しました。当時の大きな課題であった冷房装置の搭載やワンマン運転などを実現するとともに、かつての高性能車両デオ300型以来のカルダン駆動を装備していました。そして、記録上でもその系譜を引き継いでいます。

「ひえい」は、近年の来訪者の増加に呼応して「比叡山・びわ湖観光ルート」をさらに振興させるために、出町柳と八瀬比叡山口を14分で結ぶ叡山本線の観光用として、732号車を改造した車両です。

車体は台枠や骨組を残して大きく改造を施しました。外観の光沢ある深緑色は比叡山の深い森を想わせ、多用されている印象的な「楕円」は沿線の「神秘的な雰囲気」や「時空を超えたダイナミズム」などのイメージを表現しています。側面の金色のストライプは比叡山の山霧を表わしています。

前照灯2基が前面楕円リング内側の上部と下部に分かれて設けられ、尾灯は下方の曲線に沿う位置にあります。このようなデザインは極めて独創的で、改造車両であることを感じさせない一方、風情のある洛北の街並みとも十分に調和しています。

車内では濃緑色の壁と黒色の吊輪、黄色のシートを橙色のLEDダウンライトが照らしだし、優美な雰囲気を醸し出しています。

ロングシートの採用によって通勤通学輸送も兼用しています。深い座り心地のシートは一人あたり525mm幅のバケットタイプで、背もたれとヘッドレストが車外展望を妨げないように楕円形固定側窓の間柱部に配置されています。また、八瀬比叡山口寄車端部は折り畳み式で、乗客の多寡に柔軟に対応しています。

改造以前の車体中央の窓付近は立席スペースにし、楕円形大型固定窓を同様に設けて、ワイドな眺望を楽しめるように工夫しています。
主電動機と台車は京阪電気鉄道5000系の既使用品、空気圧縮機は大津線車両と同型品、集電装置は下枠交差式にするなど、保守面で定評のあるものに一新を図っています。

デオ730形「ひえい」は、おもに鞍馬線用の展望車両デオ900形「きらら」に引き続き、叡山本線にも新たなデザインの特別料金不要な観光列車を定着させて国内外からの来訪者に対応し、同時に沿線の通勤通学輸送に潤いをもたらすよう貢献していることから、ローレル賞に選定しました。

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