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2018年 選定作品の解説・選定理由

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単行本部門 名取紀之「紀州鉱山専用軌道」ネコ・パブリッシング(2017)

 

本書は、紀伊半島の山中にあった紀州鉱山専用軌道について、閉山間際の1978(昭和53)年3月に3日間にわたって現地を訪れた際の記録に基づいて、その沿革などを含めてまとめた著作です。路線、車両などの基本的な記録にとどまらず、閉山を間近に控えた従業員、利用者の様子など、当時の雰囲気を写真と文章によって現在に伝えています。鉄道趣味の原点とも言えるフィールドワークの面白さ・価値に気づかされるという意味で類を見ない内容で、著者独特の聞き取りや現地での実地調査、文献調査もバランスよく織り込まれ、調査・研究の模範となる著作として、島秀雄記念優秀著作賞に選定しました。

単行本部門 KEMURI PRO.「阿里山森林鉄道」南軽出版局(2017)

 

本書は、日本統治時代の台湾で日本人の手によって建設された阿里山森林鉄道について、車両の記録のみならず沿線風景から歴史、地勢的な面までを総合的にまとめた著作です。KEMURI PRO.は、鉄道情景を中心とした組写真による「語りかけるグラフ」を持ち味として活動を続けている鉄道趣味者の集団で、これまでにも『貝島炭礦鉄道』(2015)、『北のオールドアメリカン』(2016)など格調高い著作を発表し続けています。写真を魅せる各ページのレイアウトの構成や、挿入図表なども自ら作成するなど、本づくりに対するこだわりも高く評価できます。阿里山森林鉄道の往時の姿をしのび、歴史を知る上で充実した内容の著作として、島秀雄記念優秀著作賞に選定しました。

定期刊行物部門 中山嘉彦「日本初の連節車京阪電気鉄道60型・びわこ号」(『レイル』No.103掲載)

 

本作品は、わが国最初の連節車として知られる京阪電気鉄道60型「びわこ号」電車について、数々の歴史的記録写真と、詳細な記事で掘り起こした著作です。この車両については、これまでにもたびたび取上げられていましたが、本作品は、その誕生のいきさつから終焉まで、内外の膨大な資料と多くの聞き取りにより調査され、欧米の文献を詳細に探索して幅広く考察しています。また、連節車の利点や「連節」、「連接」の表記についても言及するなど、これまでに無かった多くの内容を含んでいます。さらに、開発に携わった人物についても考察を深め、写真や図表なども充実しており、地道な調査に基づいてまとめられた著作として島秀雄記念優秀著作賞に選定しました。

特別部門 「釧路・根室の簡易軌道」(釧路市立博物館)の出版に対して

 

本書は、釧路市立博物館の企画展の内容をまとめた図録で、従来体系化された資料が少なかった簡易軌道について、地元自治体に保存される資料や写真の掘り起こしをはじめ、各鉄道の職員だった人たちや沿線利用者の体験談や記録写真の数々も加わり、簡易軌道をまとめた書籍として充実した内容となっています。また、地元の利を生かしつつ、全国的な鉄道趣味者のネットワークを活用するなど、編著者の果たした役割も高く評価できます。シンプルな構成ながら、網羅性が意識されているほか、鉄道趣味者の記録や成果をうまく取り入れており、島秀雄記念優秀著作賞特別賞にふさわしい業績として選定しました。

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